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生成AIと著作権問題についての一考察


目次[非表示]

  1. 1.序章:AIの変遷と現在の位置付け
  2. 2.第1章:生成AIと著作権
  3. 3.第2章:チャットGPTの学習過程と著作権問題
  4. 4.第3章:チャットGPTによる作品に対する著作権
  5. 5.第4章: 私なりのAIに対する考察
  6. 6.結論:生成AIとうまくつきあっていくために
    1. 6.1.AIの進化と著作権問題
    2. 6.2.AIと著作権の関係
    3. 6.3.技術の進歩と法律の枠組み
    4. 6.4.教育とトレーニングの重要性
    5. 6.5.AIと著作権の未来
  7. 7.おわりに

こちらの記事はDIVXアドベントカレンダー2023の10日目の記事です。
こんにちは。DIVXエンジニアの山坂巧です。今回のブログでは、近年注目を集めている生成AIと著作権について、深掘りしてみようと思います。生成AIがどのように動作し、それが著作権法とどう絡み合っているのか、また、こうしたテクノロジーがもたらす可能性と法律的課題についても考察します。皆様の興味や議論のきっかけになれば幸いです。それでは、早速進めていきましょう。

序章:AIの変遷と現在の位置付け

歴史を通じて、人間の「思考」を実現する機械、すなわち人工知能(AI)の可能性と挑戦は尽きることがありません。始まりは単なる「自動化された機械」でしたが、現在のAIはまるで「思考する機械」のように進化し、特に注目されている領域が「生成AI」となっています。

「生成AI」は、特定のパターンを学習し、新しい作品や結果を生成するAIの一種で、文章の作成から画像の生成、音楽の作曲まで、その活用範囲は広範に亘ります。さらには、その中には人間の芸術家さえも超越した作品を生み出すものもあります。
しかしながら、生成AIの進化と多様化するアウトプットは同時に法的・倫理的な問題を引き起こしています。その一つが著作権問題となります。
従来、著作権は人間が創造した作品を保護するための法律でした。しかし、生成AIが創出した作品に対する著作権は、現行の法律では明確な定義が難しく、この問題については世界各地で議論が交わされています。
エンジニアとしての視点から見れば、生成AIは単に指定されたタスクを遂行する機械に過ぎません。従って、その生成結果に対する著作権は指示を与えた人間、つまりプログラムを開発したエンジニアが保持すべきという意見もあります。エンジニアはAIの設計と開発に長い時間と労力を費やし、その成果物に対して正当な権利を主張することは合理的です。しかしながら、一方でアーティストは元々の創造的なアイデアを提供したと主張し、AIがそのアイデアを元に生成した作品に対しても権利を主張することがあります。アーティストは自身の創造性と芸術的なビジョンに基づいてAIを活用し、新しい作品を生み出しています。このような場合、エンジニアとアーティストの間には意見の衝突が生じる可能性があります。
消費者の視点に立つと、利用可能な作品の利用規定を理解し直す必要があるかもしれません。生成AIが作成した作品に対しては、著作権や使用許諾などの法的な制約が存在する場合があります。消費者は、作品を利用する際にはこれらの制約を遵守する必要があります。AIによって生成された作品を利用する際には、その作品の著作権や使用許諾について正確な理解を持つことが重要です。
この記事では、これらの問いに対する一考察を提供し、生成AIと著作権の未来について新たな議論のきっかけとなることを目指します。

DALL·E 3によって作成:生成AIの発展に喜ぶ民衆

第1章:生成AIと著作権

人工知能(AI)技術が進化する中で、「生成AI」が出現し、私たちの生活スペースに浸透してきました。これにより、かつて人間だけが創造できたとされた芸術作品を卓越した技巧で生成し、クリエイティブな表現方法を拡大させています。しかし、その一方で、特に著作権関連の問題が浮上し、解決を待つ課題となっています。
テキスト生成の例としては、OpenAIの「GPT-3」があります。詩や小説の一節、ニュース記事の要約など、多様な文章を生成することができます。生成の過程はまるで人間が文章を書くかのような様相を呈しています。
絵を描くAIとしては、「DALL·E」があります。ディープラーニングの力で絵画を生成し、その完成度は人間の芸術家が生み出す作品と見分けがつかないほどです。
音楽生成に関しては、「AIVA」や「MuseNet」や「Amper Music」などがあります。複数の楽器をオーケストラのように操り、感情に訴えかける楽曲を生成します。これはかつて音楽家が音符を紡ぎ出していた作業に酷似しています。
これらの生成AIは、それぞれ専門的な領域において人間の芸術家のような創作活動を展開します。データの学習とパターンの抽出、そして新たなアイデアの生成のプロセスは、人間の創作活動を反映しています。統計的・確率的手法(マルコフ連鎖など)や機械学習手法(ニューラルネットワークなど)が組み合わさっています。
例えば、テキスト生成に用いられるマルコフ連鎖の場合、一つの言葉から連想をたどり、次に何を書くかを決定します。これは詩人がイメージから言葉を紡ぎ出す過程に類似しています。一方、テキストが複雑な構造を持ち、文脈理解や意味の連続性の維持が求められる場合、双方向長短期記憶(Bi-LSTM)などのニューラルネットワーク手法が用いられます。これは小説家がエピソードをつなぎ合わせ、物語の筋道を取りまとめる作業に対応しています。
このように生成AIが新たな作品を創り出す過程は、人間の芸術家が感性や思考で作品を生み出すプロセスと酷似しています。具体的な例として、チャットGPTの学習過程を考えてみましょう。

DALL·E 3によって作成:AIの発展に喜びつつも権利の問題に悩む人

第2章:チャットGPTの学習過程と著作権問題

まず、基本的な学習プロセスについて見てみましょう。GPTのようなAIは、インターネット上の大量のテキストデータから学習し、知識を形成しています。このプロセスでは、数十億以上の文書に含まれる語彙、文法、情報などが統計的に解析され、モデル内に蓄積されます。
具体的には、次の2つの段階で行われます:
・事前学習(Pre-training):この段階では、多様なインターネットのテキストデータ(ニュース記事、ブログ、フォーラムの投稿、書籍の一部など)を使用して、言語の基本的なルールを学びます。機械学習の手法を使用して、次にどの単語が来るかを予測するモデルが生成されます。
つまり、AIはこの段階で「読む」ことを学び、それが「想像力」の育成につながるとも言えます。
・調整(Fine-tuning):この段階では、GPTに特定のタスクを遂行させるために専門的な知識を教えます。具体的には、質問応答や文章生成などの特定のスキルを持たせるために基本モデルを調整します。
ここでAIは「書く」ことを学んでいきます。
この学習プロセスは、知識を「読む」ことで増やし、「書く」ことで新しいアイデアを生み出す一連の流れと考えることができます。ただし、ここで注目すべきは、GPTが新しい文章を生成する際に、元の情報を直接引用・反映するのではなく、「元の情報を基にした新たな情報を生成する」という点です。
つまり、GPTが生成する文章はすべて新規の作成物であり、生成元となった具体的なデータや情報を直接的に引用・反映しているわけではありません。これはまさに芸術家がインスピレーションを元に新しい作品を生み出すプロセスと酷似しています。
GPTはもちろん、他の生成AIも同様の方法で学習と生成を行っており、これらが新しい作品を生み出す行為は創作と見なすことも可能です。しかし、同時に、生成物に関する著作権の所在や、生成元となったデータや情報の著作権との関連性など、新たな著作権問題を引き起こしています。

第3章:チャットGPTによる作品に対する著作権

チャットGPTのような生成AIは、人間の創作過程を学習し、統計的な学習を通じて新たなアイデアを生み出すことができることを説明しました。しかし、そこで問われるのは、「生成AIが生み出す作品の著作権は誰が持つべきか?」という哲学的な問いです。
従来の著作権は、「人間が創作した作品に与えられる排他的権利」とされてきました。しかし、生成AIが作品を創出する場合、その法的位置づけは複雑になります。
もちろん、AIそのものが著作権を持つわけではありません。現行の法律では、著作権は「人間以外」には認められていません。また、AIが著作権を持つとすると、収益化や著作権侵害といった問題に対処する主体を明確に定義することが困難になります。
では、生成AIが創出した作品の著作権はどうすべきでしょうか?一部の専門家は、生成AIのアルゴリズムを設計したエンジニアや、そのAIを使用して作品を創出したユーザーが著作権を持つべきだと考えていますが、現状では明確な合意に至っていません。
さらに、著作権に関連する問題は、それ以上の範囲でも多岐にわたります。例えば、チャットGPTはインターネット全体や多様な文書から学習していますので、その学習データには無数の著作権が存在すると考えられます。そのため、生成される作品は完全にオリジナル作品と言えるのか、それとも既存の著作物の抽出や再構成であると見なされるべきなのかという問いも生じます。
以上からも分かるように、チャットGPTのような生成AIが創り出す作品に対する著作権の所在は、現行の法律では明確に定められていません。そのため、今後、法律が技術の進歩に追いつくような形で、新たな法整備が必要とされるでしょう。

DALL·E 3によって作成:エンジニアや法律家がAIについて議論する

第4章: 私なりのAIに対する考察

現在、AIはさまざまな領域でその力を発揮し、特にエンジニアたちはAIによる自動コーディングを通じて、労力を大幅に軽減し、効率的な開発を実現しています。
ところが、AIが生成するコードは、開発者が直接手を加えたコード同様に「財産」としての価値を持ちます。これはAIによる自動コーディングが企業の時間とリソースを大幅に節約し、効率的な問題解決に直結するためです。しかし、その結果として、AIが生成したコードの著作権はどのように扱われるべきかという新たな問題が浮上しています。
現行の法制度下では、AIは人間の補助役という立場であり、AIが出力するコードの源は人間が作成したデータです。従って、AIによる創作物の著作権をどのように扱うべきかは難しい問題です。法律は一般的に原作者に著作権を保護しますが、AIが生成したコードの"原作者"が人間ではないため、現行の法律が完全に適用できるわけではありません。
私の考えとしては、現行の著作権法に加えて、AIが生成するコードに関する新たな法的枠組みを考慮する必要があると思います。AIの進化と技術の発展に合わせて、著作権の所在や保護の方法を見直す必要があります。また、AIの適切な利用方法についての教育も重要です。エンジニアは、どのようなデータがAIによって利用可能か、どの程度AIに依存すべきか、AIが生成したコードの著作権についてどのような考え方を持つべきかについて教育を受ける必要があります。
著作権問題だけでなく、AIにおける法規制や動向も注目されています。AIの発展に伴い、個人情報の保護やバイアスの排除、透明性の確保など、AIの利用に関する法的な規定が必要とされています。また、AIの進歩によって生じる労働市場の変化や倫理的な問題にも対応するために、法律の側も迅速に対応していく必要があります。
さらに、AI技術の進歩によってもたらされる著作権問題は、国際的な視点からも考える必要があります。最近の出来事で、2023年3月にはAIの開発元であるOpenAIに対し、イタリアのデータ保護当局から一時的な使用禁止令が出されました。これはユーザから収集した情報をどういった形で使用しているのか、ユーザの同意無しにAIの学習データとして利用していないかという疑問があるためです。AIモデルのトレーニングには大量のデータが必要で、GDPR等のデータ保護法によりそれらの情報がどういった形で利用されるかが厳しく制限されています。
全てのAI開発がこのような問題と直面するわけではないでしょうが、AIの進化とデータ保護法との間の摩擦を示す一例として、この事例は重要な意義を持っています。AIの進化とそれに伴う便益を享受しつつ、法的な規範や倫理にも適切に対応していくことが求められています。これもまた、エンジニアたちが直面する新たな課題と言えるでしょう。
このように、科学技術の進化は我々の生活に新たな便利さをもたらしますが、それと同時に新たな社会問題も生むのです。その解決のためには、法律や倫理、そしてそれぞれの分野の専門家たちが協力し合うことが求められています。

結論:生成AIとうまくつきあっていくために

AIの進化と著作権問題

AIの進化とそれに伴う著作権問題は、現代の私たちが直面している喫緊の課題の一つです。AI技術の進歩により、生成AIの活用はますます広がりを見せており、その結果として生じる作品の法的な定義や著作権の所在については、個々の国内法だけでなく、国際的な規約や指導原則も求められます。

AIと著作権の関係

AIと著作権の関係については、技術者、法学者、著作権所有者、そして利用者全員が共に対話し、考察を深め、新しい枠組みを探っていく必要があります。AIは事前学習と微調整の過程で学んで生成する全ての内容を新規の生成物としています。これは、人間の芸術家が感性によって新たな作品を創造するのと同等のものです。しかしこの点において、AIが持つ法的な含みをどう理解するかは今後の課題となります。

技術の進歩と法律の枠組み

重要なのは、技術の進歩とそれによって生じる新たな問題は同時に進んでいくべきであり、我々はその一環として進んでいくべきだということです。AIの能力を尊重しつつも、それが新たな問題を引き起こすことがないように注意深く取り組んでいく必要があります。そして、法律や倫理の枠組みを整えることで、AIの発展を支え、同時に著作権保護を維持することが求められます。
AIの進化に伴って、AIが生成した作品の著作権をどのように扱うべきかは難しい問題です。現行の著作権法は一般的に原作者に著作権を保護しますが、AIが生成したコードの"原作者"が人間ではないため、現行の法律が完全に適用できるわけではありません。このため、現行の著作権法に加えて、AIが生成するコードに関する新たな法的枠組みを考慮する必要があると私は考えています。

教育とトレーニングの重要性

私たちはまた、AIを使う人々、特にエンジニアやデベロッパーに対する教育やトレーニングの必要性を忘れてはなりません。AIが生成したコード、テキスト、芸術作品に対する著作権を理解し、正確な知識を持つことは、彼らが持つべき重要なスキルです。エンジニアは、AIがどのようなデータを利用するか、どの程度AIに依存すべきか、AIが生成したコードの著作権についてどのような考え方を持つべきかについて教育を受ける必要があります。

AIと著作権の未来

AI技術の進歩は、我々の社会に大きな変革をもたらすことが予想されます。その一環として、AIによる作品の著作権問題は重要なテーマとなっています。私たちは、この問題に対して適切な対策を取るために、関係者や専門家と協力し、法律や倫理の枠組みを整える必要があります。AIの進化と著作権の保護のバランスを取りながら、創造的な表現活動を促進し、公正な利用を確保することが求められます。
AI技術の進歩によってもたらされる著作権問題は、国際的な視点からも考える必要があります。AIは国境を越えて利用され、生成された作品が国際的な著作権の保護を必要とする場合もあります。したがって、国際的な協力や法的な合意が重要となります。
最後に、この記事がAIと著作権についての新たな議論のきっかけとなることを期待します。生成AIの可能性は無限大であり、それが持つ法的な課題を解決することで、さらなる発展と革新がもたらされることでしょう。


参考図書
ゼロからわかる 生成AI法律入門 対話型から画像生成まで、分野別・利用場面別の課題と対策
生成AIパスポート公式テキスト

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