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ブロックチェーン「仮想通貨さん、ぼく、独り立ちします!!」


目次[非表示]

  1. 1.はじめに
    1. 1.1.参考文献
  2. 2.この記事の流れ
    1. 2.1.章立て
    2. 2.2.結論から話すと。
  3. 3.貨幣とはなにか。
  4. 4.現実世界の貨幣の"増えないこと"と"増やせること"
  5. 5.仮想通貨の実現のために
    1. 5.1.思考実験 板金の在り処
  6. 6.ブロックチェーン技術
    1. 6.1.ハッシュ値を使った改ざん防止策
    2. 6.2.帳簿の関連付け(=チェーン)
    3. 6.3.民主的な取引承認、PoWと51%攻撃
    4. 6.4.偶然の事故、ハッシュ衝突による改ざん成功
    5. 6.5.ブロックチェーン技術の独立
  7. 7.[余談]ビットコインのマイニング作業と半減期
    1. 7.1.マイニング作業と報酬
    2. 7.2.仮想通貨の半減期
    3. 7.3.仮想通貨のこれから
  8. 8.仮想通貨とブロックチェーン技術の概念的まとめ
  9. 9.おわりに

はじめに

こんにちは、DIVXエンジニアの安部です。
DIVXアドベントカレンダー2022、9日目となりました。

記事の内容としても、DIVXでの働き方や仕事哲学が続きました。
同僚が熱い思いや自分なりの哲学を持って働いていることを改めて知ることができて、僕自身も楽しく読んでいます。

ただ、今回は少し趣向を変えて、あえて技術的な記事を書いてみたいと思います。と言っても、具体的に手を動かすのではなく「読み応えがあり、読後感が良いブログ記事」を目指して書きました。

今回のテーマに決めた理由は、仮想通貨で私が勉強した際に「うーん、右も左もわからん!!!!!」と本を読み漁り、その結果「仕事で使わない人にも、教養として魅力的に紹介できるようになった」という手応えからです。

話は変わりますが、個人的にDIVXという会社で一番の魅力だと思っているのは「先輩が嫌な顔ひとつせず、基礎からしっかりと後輩エンジニアに教える」という文化が社内全体に根付いていることだと思います。

この記事も実は、社内で案件に入ったときに「仮想通貨?ブロックチェーン?同じものなの?」とメンバーが困惑していたため、自分なりに勉強して書いた社内向け資料を加筆修正したものです。

「へー、こんな社内記事があるんだ。」

「なるほど、こんな記事が出回る文化があるんだ。」

「こういう会話も繰り広げられる会社なんだ。」

と、社内の雰囲気を感じてもらえたら幸いです。

とても長い文章になってしまいましが、通して読むと「教養としての仮想通貨とブロックチェーン」を身につけることができます。また、流し読みでも「ブロックチェーンと仮想通貨って何が違うの?」という問いに対しては答えを示せるかなと考えています。

参考文献

現代経済学の直観的方法」 長沼伸一郎 講談社 2020/4/9

上記参考文献が極めてわかりやすく仮想通貨とブロックチェーンを解説しているため、以下にざっくりと書き出します。この記事はあくまで概念的理解を目指すもので、技術的理解は他の記事を参照してください。

この記事の流れ

章立て

この記事は以下の流れで進みます。

  1. そもそも「貨幣とはなにか?」
  2. 資本主義社会における貨幣の二律背反「現実世界の貨幣の"増えないこと"と"増やせること"」
  3. 「仮想通貨の実現のために」必要な、二律背反の実現
  4. 仮想通貨の信用を支える「ブロックチェーン技術」
  5. "増えないこと"を実現する「仮想通貨の半減期」
  6. 「ブロックチェーン技術の独立」さえ理解すれば、ややこしさ半減
  7. ここだけ読んでもOK、「仮想通貨とブロックチェーン技術の概念的まとめ」

結論から話すと。

この記事の最後にまとめを入れますが、エンジニア的に先に結論を言ってしまうなら以下のとおりです。

「仮想通貨の信用担保を実現するために生まれたブロックチェーン技術が『この機能、いろいろ便利じゃん』と注目され、仮想通貨から独立して使用されるようになった

参考文献内では以下のような例が使われていました。

国際旅客・輸送を担えるジャンボジェット機を開発し、その技術が色々溜まってきた。

その技術の一部を転用して小型旅客機を作った。更に航空産業の多くの基礎技術を転用してドローンもできた。

やがて時代の流れとともに大型機はごく限られた用途にしか使われなくなったが、大型機から派生した小型機やドローンは、より広く様々な用途に使われている。

仮想通貨とブロックチェーンの関係も同様に「もともと仮想通貨という大プロジェクトの一部として使われていたブロックチェーン技術が、独立・簡略化してより広範な用途に使われるようになった」と解釈して問題ありません。

このように「もともとは大掛かりなプロジェクトの一部だったものが独立し、今はそちらのほうが広く使われるようになった」というのはプログラミングの世界ではあるあるだと考えています。

日頃なんとなく使っている「モジュール化」「CI/CD」等の用語も、このような視点で眺めてみると新しい理解につながるかもしれません。

前置きがとても長くなってしまいました。それでは本編へどうぞ。

貨幣とはなにか。

まずそもそも、貨幣や通貨とは何でしょう。両方ひっくるめて『お金』と呼ぶことにします。
お金は『金』という漢字がつく通り、もともとは『腐らなくて持ち運びできる貴金属』を使っていました。

広辞苑では、貨幣の意味は以下の通り。

商品交換の媒介物で、価値尺度・流通手段・価値貯蔵手段の三つの機能を持つもの。本来はそれ自身が交換されるものと等価な商品で、昔は貝殻・獣皮・宝石・布・農産物など、のち貨幣商品として最も適した金・銀のような貴金属が漸次用いられるようになった。
②広義には、本位貨幣のほか、法律によって強制通用力を認められた信用貨幣および預金通貨をも含めていう。

ざっくりいうと「貴重な金属や法律等の強い後ろ盾を持つ、商品交換の媒介物」となります。

現実世界の貨幣の"増えないこと"と"増やせること"

この項目はあくまで「資本主義社会でのお金の役割」というところに絞って解説します。

資本主義社会の貨幣は以下の2点の矛盾する2つの要求を抱えています。

  1. 誰もが勝手に増やすことができないこと。
  2. 社会の要求に応じて、漸進的に増やすことができること。

なぜこんな二律背反をしているかというと、これは現在の「成長を前提とした」資本主義があるからです。※1

中世においては「貴族や王室が金銀を採掘し、その含有量を決めて流通する」という金本位制がとられていました。金本位制では、1の要求には応えられるものの、2の要求には応えられません。これは、鉱石の採掘量を人間都合で増やすことはできない※2,※3ためです。

現代は「政府が作った貨幣のみを流通させる」ということで、1,2を実現しています。広辞苑の貨幣の意味で言えば「法律によって強制通用力を認められた信用貨幣および預金通貨」ですね。そのロジックは以下の通り。

  • 政府は贋金(にせがね)対策や刷り過ぎによるインフレ抑止に膨大な費用をつぎ込む
  • 政府は武力や経済的・政治的圧力で貨幣の信頼を担保する。
  • 政府以外に貨幣を鋳造・流通できる組織はない

上記のロジックが意図通り動いている場合、本質的には価値のない紙や電子の紙幣で決済ができるという状態になります。

たとえばUSドルの場合、アメリカの軍事・経済的影響力によってその価値が担保され、戦後のアメリカの政策もあって現代の世界通貨の地位を確立しています

戦前は、イギリスのポンドがその地位を占めていました。※4

仮想通貨の実現のために

仮想通貨とは、政府や希少金属の後ろ盾を持たない第三の形態を目指して作られる貨幣全般を指します。

※5
多くの場合、それはデジタルデータ上に存在します。

デジタルデータの代表的なメリットといえば「増やすことが容易」「編集も容易」「世界中の誰でも閲覧できること」などが挙げられます。

これらを踏まえ、電子的な貨幣を生み出すことの難しさを考えると、上記で言う「1.誰もが簡単には増やせないこと」の実現が極めて困難なことだと言えるでしょう。そのためビットコインを始めとした仮想通貨は「2.社会の要求に応じて、漸進的に増やすことができること」を大幅に制限し、あるいは大部分を諦めることで1の実現を図っています。

いわば、中世の金本位制をデジタル世界に再現することによって仮想通貨は価値を持つといえる。

思考実験 板金の在り処

仮想通貨の信頼を担保する「ブロックチェーン技術」の理解にあたり、簡単な思考実験をしてみましょう。

世界には決まった量の板金があり、極めて高性能な人工衛星を使って、世界中の板金の位置や流通量、移動経路をすべて監視できるとします。

思考実験 板金の在り処この場合の板金の流通を以下の2点に整理します。

  • いま、板金は物理的にどこにあるのか
  • これまで、板金はいつどこにあって、これからどこに行くのか

実は上記2つの情報のうち、最初の金の在り処と後者の流通経路を完全に追跡できていれば、前者の情報を再現できます。そしてそれには、物理的な板金も必要ではありません。板金を誰が、いつ、何グラム持ってどこに行くのかという足跡を追いさえすれば良いのです

思考実験 板金の在り処

これを電子世界に当てはめると、前者の「いま、どこに物理的な板金があるのか」を追跡するより後者の「これまでどのような経路をたどったのか」という足跡を追跡するほうが簡単でしょう。

というより、そもそも「電子世界に物理的な板金は存在し得ないので、足跡を作って仮想的に存在することにしよう」という試みが、仮想通貨の本質といえるのです。

上記を仮想通貨に当てはめると「この仮想通貨をいつ、誰がいくら支払い、誰が受け取ったか」という取引記録を完全に記録し、常にその収支合計が0になるように調整する。これにより、現代流通している仮想通貨の絶対量はいたずらに増えることがなくなる。もしも収支にプラスやマイナスが発生した場合、仮想通貨そのものが増減することになってしまう

やはり、足跡である取引記録の改ざん防止こそ仮想通貨の最重要課題なのです

おまたせしました。本番です。以下で、取引記録の改ざん防止のための技術である「ブロックチェーン技術」を詳しく見ていきましょう。

ブロックチェーン技術

ハッシュ値を使った改ざん防止策

上記「板金の在り処」の思考実験をした結果、仮想通貨に必要なのは「取引記録をどのように信頼してもらうか」であり、そのために以下の2点が必要です。

  • 取引記録を誰もが閲覧できること。
  • 取引記録を誰も改ざんできないこと。

また二律背反が出てきました。

矛盾する要求である「誰でも見れる場所に誰も改ざんできない情報を保持する」を実現する技術こそ、仮想通貨に不可欠なブロックチェーン技術です。

ブロックチェーンではまず、レコード内の「ID,日付,取引金額」などの一見関係なさそうな数値を足し合わせます。そして、「ハッシュ関数」という値で更に計算し、その結果である「ハッシュ値」を保存することで改ざんを防止している。「ハッシュ関数」は、ざっくりいうと以下の要件を満たす計算式です。

  • 入力された数値に関係なく、特定の桁数の数字が出力される。
  • 入力される数値が少しでも変われば、出力される数値は大きく変わる。
  • 出力された数値だけでは、入力された数値が復元できない※6

たとえば、以下のような計算をしてみましょう。

  1. ID,日次,金額等の取引に関わる数字をすべて足し合わせる。(例:12090 + 42329 + 12545 = 66964)
  2. 上記の数字の末尾2桁を3乗する(64の3乗=262144)
  3. 1,2の数値を足す(329108)
  4. 3の数値を923で割り、あまりを求める(329108 % 923 = 523)
  5. 4で計算したあまりを保存する。


これも上記の要件を満たしています。試しに、「12545」を「12546」に変えて計算してみましょう。あまりは「80」(=080)となるので、入力値を1変えただけで出力は大きく変わります

上記のような簡単なハッシュ関数ではロジックが見破られる危険もありますが、桁数を増やしたり、より複雑にすることでロジックの解読は極めて困難になります。

現在広く使われている「SHA-256暗号」がいかに複雑かは、以下の動画が短くわかりやすくまとめてくれています。


帳簿の関連付け(=チェーン)

ハッシュ値を使って一意の数値を導き、記録できました。そこに更にひと手間加えることで、改ざんはより困難になります。

一般に、仮想通貨の取引記録は時系列に基づく「ブロック」という単位で記録されています。そして、ひと手間とは「該当ブロックのハッシュ値を次のブロックに保存して、『前ブロックのハッシュ値』として保存した値も含めてハッシュ関数で計算してしまう」ということです。

このひと手間を「ブロックチェーン化」といい、以下のような手順で改ざんしなければなりません。

Before:

  1. ハッシュ関数のロジックを解読する。
  2. ブロックの任意の値を改ざんした上で、ハッシュ関数で計算したハッシュ値も更新する。

After:

  1. ハッシュ関数のロジックを解読する。
  2. ブロックの任意の値を改ざんする。
  3. 改ざんしたブロックの次のブロックに保存されている「前ブロックのハッシュ値」も更新する。
  4. その次のブロックに保存された「前ブロックのハッシュ値」も更新して計算する。
  5. 3,4を最新のブロックまですべて繰り返す


このブロックチェーン化についてはいらすとやさんのイラストがとてもわかりやすいです。

ブロックチェーン化
ブロックごとの取引記録がパズルのように噛み合っていて、ブロックを一つでも改ざんするとパズル全体が完成せず破綻するということがわかるかと思います。
このパズルのつなぎ目の役割を果たすのが「前ブロックのハッシュ値」なのです。

このように、ハッシュ値の保存領域を同一ブロックから次のブロックに変えるだけで、改ざんすべきブロックの数が指数関数的に増えることになります。

このように、仮想通貨の取引記録たる「ブロック」をお互いに「結びつける(チェーン)」ことで、改ざんを著しく難しくすることを「ブロックチェーン」と呼びます。

民主的な取引承認、PoWと51%攻撃

ここからは仮想通貨での信用担保の方法の説明になるので、読み飛ばしても構いません。

仮想通貨の本質は「取引記録が公開されていること」と「誰にも改ざんできないこと」であり、改ざんを防止するためにブロックチェーン技術が使われることを学んできました。

では、「取引記録が改ざんされていない正しいものだ」と判断するロジックはどうなっているのでしょうか。

ビットコインに限って言えば、これには「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」と呼ばれる、分散型ネットワークによる承認ロジックが使われています。

簡単に言うと、世界中の膨大なコンピュータが取引記録を参照し、「この取引は正しい」と判断したコンピュータが過半数に達した場合に取引を承認するということです。

そして正しいとされる取引記録は、その複数のコンピュータで同じものが保存されています。
世界中の膨大な取引記録を一箇所に保存し、そこを単一障害点とする運用はもちろんされていません。

つまり、仮想通貨の取引承認は信頼できるコンピュータ同士の直接民主制ということになります。

それでは、PoWの承認ロジックを突破して改ざんすることは可能でしょうか。結論、可能です。

いわば分散型ネットワークに散らばるコンピュータの過半数の取引記録を改ざんすれば良いのです。改ざんの手順は以下の通りです。(1-5はブロックチェーン化と共通)

  1. ハッシュ値のロジックを解読する
  2. ブロックの任意の値を改ざんする。
  3. 改ざんしたブロックの次のブロックに保存されている「前ブロックのハッシュ値」も更新する。
  4. その次のブロックに保存された「前ブロックのハッシュ値」も更新して計算する
  5. 3,4を最新のブロックまですべて繰り返す。
  6. 5の作業を分散型ネットワークの過半数のコンピュータに対して実施する。
  7. 3-6の作業をセキュリティが不正を検知するよりも前に完了する。


このような攻撃は「51%攻撃」と呼ばれています。単純にブロックチェーンを突破して改ざんするだけでも困難です。更にそこからすべてのコンピュータに同じ作業を繰り返すため、ある程度成熟した仮想通貨に対してこのような攻撃を行うことは不可能に近いでしょう。

偶然の事故、ハッシュ衝突による改ざん成功

上記のように、ブロックチェーンは1つでも値を改ざんすれば、以降のすべてのブロックに矛盾が生じるという画期的な暗号方式です。

しかし、上記の例では「923で割ったあまりを求める」という計算をしているため、あまりが0-922の間に限られ、923分の1の確率で改ざん後の値に矛盾が生じない危険性があります。

この偶然に値が一致する確率を「ハッシュ衝突」と呼びます。

上記の例では1000回程度試行すればハッシュ衝突が起きますが、実際には2進数の256桁程度の値で計算されているとされるため、ハッシュ衝突が起きる割合は無視できるほどに小さいです。

ブロックチェーンは原理的にこのハッシュ衝突の確率をゼロにできない代わりに「改ざんの検知が早い」こと、「改ざんに膨大な手間がかかる」ことを保証しています。

ブロックチェーン技術の独立

上記で述べてきた「仮想通貨の実現のためのブロックチェーン技術」は、ブロックチェーン技術の誕生の物語ではあります。しかし、現代はブロックチェーン技術が独立し、仮想通貨以外の場所で活躍しています

上記の「ハッシュ関数による改ざん防止」「ハッシュ値を別ブロックに保存」「分散型ネットワークによる民主的な承認プロセス」「改ざんに対する極めて早い検知と堅固な耐性」をまとめてブロックチェーンと理解すれば良いでしょう。

これは仮想通貨の世界を飛び出し、様々なセキュリティ領域に応用されています。著作権の管理、議事録の保存、契約書など、継続的な処理の中で改ざんが心配される領域に特に強いです。

そのため、ブロックチェーンの現在地は「仮想通貨の開発過程で生まれた技術が、改ざん耐性が必要な多くの局面に応用されている」と理解できます。

これが、仮想通貨とブロックチェーンの関係性でしばしば混乱が生まれる理由といえるでしょう。

[余談]ビットコインのマイニング作業と半減期

ここまでで、仮想通貨とブロックチェーンの関係性、ブロックチェーンが仮想通貨から独立した経緯まで総ざらいできました。
ここからは余談になりますので、読み飛ばしてもOKです。

代表的な仮想通貨として、ビットコインに限定してマイニング作業や報酬、半減期、「ビットコインは環境への負荷が高い」と言われている理由について解説していきます。

マイニング作業と報酬

上記で述べてきた「ブロックチェーン技術」やその周辺は、実はコンピュータにかける負荷がさほど大きくありません。
瞬間的に計算して保存できないと大規模で同時性のある取引に使うことはできないからです。

しかし、上記では以下の疑問がまだ残ります。

  • 誰がブロックチェーンを作り、管理するのか。

ビットコインにおいては、不特定多数の人間が取引でき、取引記録も参照できます。

中央集権的に誰か1人がブロックチェーンを管理するのではなく、PoWの仕組みを使って「集団思考」がブロックチェーンを管理しています。

では、どうやって集団思考を形成するを決めるのか。ここで「マイニング」というレースが登場します。

このレースは、簡単に言うといかのようなフローで行われます。

  1. 取引記録の中に一箇所、適当な数字をいれる欄を作る
  2. 適当な数字も含めてハッシュ関数で計算する。
  3. 計算結果の先頭が特定の値(例:0が5つ並ぶ、00000123456)になる。※7
  4. 上記の計算結果を最初に導き出したものが優勝者として報酬の仮想通貨を得る
  5. 優勝者が出た瞬間にブロックが生成され、新たなレースが始まる。

このような作業こそ、先程の「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」です。

上記1の適当な数字を「ナンス(nonce, 無意味な数字)」といい、レースの参加者を「マイナー(miner, 採掘者)」といいます。

そしてブロックチェーンの構造上、逆算はできません。そのため、このレースは「純粋にたくさん値をいれる」という以外に攻略法がありません。

マイナーはCPUやGPUの性能やコンピュータの台数にものを言わせ、ひたすらに計算を繰り返します。その報酬としてビットコインを受け取ります。これを世界中で行うことで分散型ネットワークができ、計算結果の監視も同時に担います。

このようなしくみを通してビットコインを始めとした仮想通貨は以下を実現しています。

  • マイナーのつくる分散型ネットワークによる取引記録の監視、改ざん防止
  • マイナーを通した仮想通貨の普及
  • 仮想通貨の流通量の増大


しかし、GPUやCPUにひたすら負荷をかけて計算しているため、電気をたくさん消費します。これが、ビットコインのプルーフ・オブ・ワークが「環境負荷が高く、エコではない」と言われてしまう要因です。
 
※8

仮想通貨の半減期

さて、ここまで仮想通貨の技術的な仕組みを見てきました。仮想通貨は当初から「電子の世界に通貨をつくる」という目標を掲げています。

「ブロックチェーンによる改ざん防止」によって、信頼性は担保できました。

一方、「いたずらに増えない」という観点ではどのように工夫されているのでしょう。

これは「最初から発行できる総量を決める」という方法で実現しています。

上述のように、ビットコインの場合はマイナーへの報酬として新規発行し、流通量を増大させています。

もしも直線的に報酬量を設定した場合、すぐに発行上限に達してしまう上、初期のまだ価値が低い段階でマイニングするメリットは極めて少ないといえます。

そこで、ビットコインは発行した総量が一定の閾値に達した場合、「報酬を半減させる」ことでこの問題に対応しています。

半減が20回続くと、報酬額は100万分の1以下になってしまいます。つまり、発行するペースが指数関数的に減っていくことで、しばらくはビットコインが発行上限に達することがありません。

もう一つ、これによって半減期より前にマイニングに参加し、ビットコインを保有することで、将来的に極めて大きな投資リターンを得られることも意味します。

これにより、長年採掘を続けるマイナーは投資家としてメリットが大きく、新規参入者にとっても「乗り遅れればより希少でより高くなってしまう。マイニングへの参加は早ければ早いほどいい。」という心理が働くのです。

少なくとも、ビットコインの発行総量が最初に定めた上限値になってマイニングによる新規発行がなくなるまでは、ビットコインの価値は上がり続けることになります。

仮想通貨のこれから

マイナー(採掘者)というのは、いかにも中世の金本位制時代に金鉱山に出かけていくようなニュアンスを感じます。

これはビットコインが最初から「総量が決まった貨幣である」という金本位制の価値観を元に作られたためです。

以下は、著者の長沼伸一郎氏の見解です。

ビットコインの発行数量が上限まで達した際は、全く違う方式で管理する必要が考えられる。

ビットコインの発行上限は「2100万枚」と決まっており、すでに1900万枚弱が発行されている。

上記の「半減期」から、採掘され尽くすのはしばらく先だと考えられるが、上限まで発行されたあとどうなるかは、引き続き注視が必要である。

ビットコインは「誰もが勝手に増やすことができないこと。」は満たしている。しかし、「社会の要求に応じて、漸進的に増やすことができること。」については、上限が決まっている。そのため、政府の発行する通貨と比較して、通貨としては限界があると考えられている。

仮想通貨とブロックチェーン技術の概念的まとめ

以上をふまえ、ビットコインを始めとした仮想通貨の専門用語をまとめてみました。

  1. 資本主義社会における通貨の要件は「誰もが勝手に増やすことができないこと。」「社会の要求に応じて、漸進的に増やすことができること。」である。
  2. 中世の通貨は金本位制による金の物理的な希少性で「誰もが勝手に増やすことができない」を実現していた。
  3. 現代の政府が発行する通貨は武力や政治的信頼で上記に加えて「社会の要求に応じて、漸進的に増やすことができること。」を実現している。
  4. 仮想通貨とは、政府や希少金属の後ろ盾を持たない新たな通貨である
  5. 仮想通貨は取引記録の収支を常に0に保つことで、金本位制の「物理的な希少性」を仮想的に再現している。
  6. 仮想通貨の取引記録を改ざんから守る仕組みとして「ブロックチェーン技術」が開発された。
  7. ブロックチェーン技術はハッシュ関数と取引記録同士の関連付けで改ざんを防止している。
  8. ハッシュ関数は「入力された数値に関係なく、特定の桁数の数字が出力される。」「入力される数値が少しでも変われば、出力される数値は大きく変わる。」「出力された数値だけでは、入力された数値が復元できない」という3つの特徴を有している。
  9. ハッシュ関数の計算結果を「ハッシュ値」といい、ブロック(取引記録の単位)で計算したハッシュ値は次のブロックに保存される。このブロック同士の繋がりを「ブロックチェーン」という
  10. ブロックチェーン化された記録を改ざんするためには、該当ブロックに加えて以降のすべてのブロックの計算結果も矛盾なく改ざんする必要がある。
  11. ビットコインは「マイニング」というレースによって新規発行とセキュリティを両立している。レースの参加者をマイナーという。
  12. マイニングは「ナンス」という数字をブロックに入力してハッシュ関数で計算し、特定の条件を満たす値を求める。
  13. マイニングはマシンパワーでひたすら計算をするしかない。最初に値を求めたマイナーが優勝する。
  14. このマイニング作業の報酬として優勝者がビットコインを受け取る
  15. マイナーたちがマイニングを通じて相互に計算結果を担保する仕組みを「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」という
  16. PoWで世界中のマイナーの過半数が計算結果を信頼した場合、取引が承認される。
  17. マイナーの過半数に対して改ざんしたデータを参照させる攻撃を「51%攻撃」という。この攻撃は実質的に不可能に近い。
  18. ビットコインは発行上限が定まっており、発行部数が一定の閾値に達するたびに「半減期」を迎える。

おわりに

ここまで読破した皆様、大変お疲れさまでした。

より短く要点だけをまとめることもできたと思うのですが、そうすると「もっと詳しく知りたいのに!!」「なんか必要な概念が抜け落ちてる気がする・・・」というモヤモヤが残ると思い、横着せずに書き連ねてみました。

何よりもお伝えしたいのは「未経験の知識があっても、先輩エンジニアがここまで深く教えるよ!!」ということです。
自分で調べてわからない場合、わかるまでとことんしつこく教えてくれる先輩がいる。

最近見ている片倉岳人さんのYoutubeショートからの引用になってしまいますが、以下の動画の「一流」や「トレーニー」のマインドセットが、弊社の社内的に備わっているんじゃないかなと思います。

この記事を通して、DIVXの雰囲気を少しでも感じていただけたら幸いです。

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※1:現在の資本主義は「銀行利息を支払うための経済成長」を義務付けられており、銀行利息である年率1.5-3.0%を超える経済成長をしなければ、経済全体が衰退するという宿命を背負っている。

※2:そのため、中世に錬金術で金が簡単に増やせるようになっていた場合、第一次大戦後のドイツのようなハイパーインフレが起こったと予想される。その場合、錬金術では作れない希少資源を新たな通貨として流通させる必要がある。

※3:金本位制から政府による貨幣に移行した結果、電子商取引の普及も可能となった。結果として、電子商取引で莫大な富を生み出せるようになった。コンピュータが普及する以前の1970年代でも、データ上の流通金額が現金を遥かに上回っていたという実態もある。
金本位制の時代は戦争に「資源の強奪」という意味があったが、現代は技術や知識、電子データに意味があり、それらは避難や削除が容易である。そのため、大国間での戦争に経済的合理性がなくなりつつある。

※4:国際通貨に必要なのは「武力による圧力」「経済大国であること」「世界に通貨の流通を許すこと」の3点である。戦前の大英帝国や現代のアメリカはいずれも有している。日本円には「武力による圧力」が不足しており、中国の人民元は「世界に通貨の流通を許すこと」を許容していないため、国際通貨の標準にはなり得ない。現代、国際通貨になり得るのはUSドル、次点でユーロ、それ以外は存在しないということになる。

※5:よく「デジタル上に存在する貨幣」と説明されることがありますが、現在の実態貨幣(ドルや円など)もほとんどは「銀行のサーバーというデジタル上に存在する貨幣」であり、この解釈は大きな誤解を生みます。

※6:よくハッシュ関数が「暗号である」と理解されるが、一般的な「暗号」とだけ理解すると誤解を生む恐れがある。多くの場合、暗号は復号できることが求められるが、ブロックチェーンにおけるハッシュ関数は「復号できないこと」こそ必要であり、これが「マイニング作業」に大きく関わっていく。

※7:例えば256桁のうちの先頭18桁が0になる値を求めたとして、残りの238桁を暗号として使用できるため、マイニングによるブロックチェーンのセキュリティレベル低下は無視できるほど小さい。

※8:例えば256桁のうちの先頭18桁が0になる値を求めたとして、残りの238桁を暗号として使用できるため、マイニングによるブロックチェーンのセキュリティレベル低下は無視できるほど小さい

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