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地方自治体の業務に生成AIを導入するまでの課題と対応プロセス

はじめに

こんにちは。DIVX ビジネスデザイン部の名本です。

近年、生成AIの進化は目覚ましく、民間企業のみならず行政機関においてもその活用が加速しています。

DIVXでは、地方創生とDX(デジタルトランスフォーメーション)推進にも取り組んでおり、その一環として、「地域活性化起業人制度」を活用した地方自治体への支援業務を実施しています。

私は「地域活性化起業人」として、2025年4月から隔週で岩手県の矢巾町役場へ出向し、AIやデジタル技術を通じた業務改善に取り組んでいます。

本記事では、地方自治体における業務改善のために、どのように生成AIを導入し、実務で活用を進めているのか、現場のリアルと対応プロセスを紹介します。

生成AIに興味はあるけど、「導入の進め方が分からない」「業務での効果がイメージしづらい」と感じている自治体DX推進担当者や、自治体DXに関心のある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

地域活性化起業人とは?

そもそも、「地域活性化起業人」という言葉に馴染みのない方もいると思いますので、簡単に解説します。

「地域活性化起業人」とは、総務省が推進する地方自治体を支援する制度の一つです。

三大都市圏に所在する民間企業等の社員が、そのノウハウや知見を活かして地方自治体へ一定期間派遣され、地域独自の魅力や価値の向上、地域経済の活性化につながる業務に従事します。

 私はこの制度のもと、民間企業のスピード感や最新のデジタル知見を役場内に持ち込み、「外部の専門家」としての視点で、職員の皆さんと共に試行錯誤しながら、DX推進の伴走支援を行っています。

なぜ今、自治体に生成AIなのか?

地方自治体も民間企業と同様に、深刻な労働力不足の危機に直面しています。

職員数が減少する一方で、行政サービスへのニーズは多様化・複雑化しており、従来の人海戦術による業務遂行は限界を迎えています。 

こうした課題を解決するカギとなるのが生成AIです。単なる業務効率化ツールとしてではなく、職員の負担を軽減し、限られた人的資源をより効果的な行政サービスへ振り分ける可能性を秘めています。

地方自治体の生成AI導入状況

自治体における生成AIの実証実験・導入状況
引用:
自治体における生成AI導入状況(令和7年6月30日)|総務省

全国の自治体における生成AIの導入状況は、まさに過渡期にあります。

都道府県や政令指定都市などの大規模自治体では、実証実験から本格導入へとフェーズが移行しつつある一方で、小規模な市町村で生成AIを導入済なのは約30%にとどまっています。

導入における主な課題は、以下のとおりです。

  • 取り組む人がいない、または不足している

  • AIの生成物の正確性(ハルシネーション)に懸念がある

  • 導入効果が不明である

そして、小規模な自治体ほど、「関心はあるが、リスクへの懸念や知見不足で足踏みしている」のが実情です。

このような状況を背景に、国は民間企業の知見を自治体へ活用できる様々な制度をつくり、支援を進めています。

矢巾町の現状と課題

生成AIの導入における課題引用:自治体における生成AI導入状況(令和7年6月30日)|総務省

矢巾町では、デジタル化や業務改善を進めているものの、想定通りに行かず、DX推進に遅れが出ているのが現状です。

たとえば、紙ベースの決裁や資料が多く、デジタルツールを活用した情報連携やデータ利活用の基盤もまだ十分に整っていません。業務への生成AIの活用も未だ進んでいない状況でした。

また、デジタル人材育成も進んでいないため、職員のITリテラシーにも偏りがあり、DX推進を担う人材も不足しています。行政業務の複雑化によって一人当たりの業務負荷も増大している状況です。

職員は業務効率化の必要性を感じつつも、目の前の業務で手一杯になり、なかなか現状を見直して改善に取り組む余力もない状態です。

こうした背景から、生成AI活用を含む業務改善策の検討と実行が、矢巾町にとって喫緊の課題となっています。

生成AI導入を阻む壁と対応

上記の課題を解決する手段として、生成AI導入への期待は高まっていました。

しかし、導入にあたっては、自治体特有の壁があり、中々想定通り進みませんでした。

ここではその壁の内容と対応策を紹介します。

1.LGWANの壁

LGWAN(行政専用ネットワーク)の仕組み

LGWAN(Local Government Wide Area Network)とは、総合行政ネットワークのことで、行政専用のセキュリティの高いネットワークです。

最大の特徴は、個人情報や機密情報を守るため、一般のインターネット環境とは完全に分離されている点です。

高い安全性が確保されている反面、インターネット接続が必要なChatGPTのようなクラウド型サービスに、LGWANから直接アクセスできない構造的な課題があります。

そのため、まずはLGWAN環境内から安全に利用できる自治体向けの生成AIサービスを前提に検討を進めました。

2.職員の心理的な壁

新しいツールを入れてみても、「手間が増えそう」「これまでのやり方を変えたくない」と感じ、抵抗を示す職員も少なくありません。

特に、生成AIは「難しそうで手が出しづらい」「どのように業務で使えばいいかわからない」と考える人も多いはずと考えました。

そのような不安を払拭するため、生成AIの導入前に職員向けに研修を実施しました。

研修では

  • 生成AIツールの概要や活用時の注意点

  • 他自治体の使用事例などを紹介

  • AIは優秀な部下として使えること

  • 習うより慣れることが大切であること

などを伝え、とにかく積極的にAIを使ってみるように提言しました。

結果として、生成AIに対する職員の心理的なハードルを下げられたと感じています。

3.コストの壁

矢巾町では、そもそも生成AI導入の見通しがついていなかったため、ツールを導入するための予算がなく、どのように予算を確保するかも課題としてありました。

そこで、まずは生成AIツールの無料トライアルを活用し、職員の利用状況や効果を把握することにしました。

トライアル終了後には、利用実績や業務への効果、職員アンケートなどをもとに効果検証を行います。

検証の結果、本格導入に踏み切ることになれば、改めて必要な予算を確保し、生成AIの利用を継続することになります。

生成AIツールの選定

生成AIツール選定においては、矢巾町の現状や職員へのヒアリングを踏まえて選定しました。

具体的には、以下の項目です。

  • LGWAN環境で使用できること

  • 無料トライアルがあること

  • 複数のLLMモデルが選択できること

  • RAG機能が利用できること

これらの項目を満たす生成AIツールを選定し、2026年2月までトライアルを実施中です。

具体的な生成AI活用事例

現在、生成AIのトライアル中ですが、業務の中でどのように活用されているのか一部を紹介します。

行政業務のAI活用事例

事例1:議会答弁書の作成

議会中は、答弁書の作成や議員対応など職員の負担は普段よりも増大します。

そこで、過去の議事録や町の政策に関する資料をAIに読み込ませ、

  • 「〇〇議員の質問に対する答弁案を作成して」

と指示することで、たたき台を数分で作成可能になりました。

これにより、ゼロから文章を考える時間が大幅に減り、職員はファクトチェックや政策的なニュアンス調整に時間を割けるようになります。

結果として、答弁作成にかかる作業時間の大幅な削減につながっています。

事例2:ボリュームの多い資料の要約

国や県から送られてくる資料や数百ページに及ぶ文書などをAIに要約させる活用も進んでいます。

  • 「添付した資料を要約して」

  • 「うちの課に関係ある箇所だけ抜粋して」

と指示することで、資料内容の確認にかかる時間を大幅に短縮できています。

特に、会議議事録の要約や、専門的な審議会資料の概要把握において、効果を発揮しています。

事例3:説明会のQ&A作成

住民向けの説明会を実施するにあたり、事前に想定質問をAIに作成している事例もありました。

職員が作成した説明会資料一式をAIに読み込ませ、 

  • 「説明会に参加する住民から想定される質問を20個挙げて、回答案も作成して」  

と指示することで、想定質問と回答のたたき台を短時間で用意できました。  

これにより、疑問が生じやすいポイントや、追加で説明が必要な箇所を事前に洗い出すことができ、質疑応答準備の効率化につながっています。

まとめ:生成AI導入後の効果と今後の展望

市区町村における生成AI導入は、あまり進んでいないのが現状です。

一方で、実際に自治体に常駐してみて、導入するまでの課題は多いものの、一つ一つ対処すれば着実に前進することもわかりました。

また、私のような外部人材が働きかけることで、導入のきっかけを作ることの重要性も実感しています。

生成AIの導入は、事務作業の削減にとどまらず、自治体職員が自ら業務改善に取り組む「意識改革」も期待できます。

地方自治体は民間企業に比べると、DXが十分に進んでいない面もありますが、DXを推進できれば、業務を大きく変えられる余地が残されているのも事実です。

矢巾町の業務効率化に向けて、引き続きDX推進に取り組んでいきたいと思います。

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