
AI導入がPoC止まりになる理由 ― 顧客価値と開発現場をつなぐ“判断設計”の話 ―
はじめに
こんにちは、divxの城戸です。
普段はAIやDX導入の文脈で、顧客の事業課題を整理しながら、「何を検証すべきか」「どこまで進めるべきか」といった導入判断の整理や合意形成を支援しています。
本記事では、「AI導入がPoC止まりになってしまう構造的な理由」と、それを防ぐために私たちが意識している判断設計の考え方について整理します。
技術論というより、顧客価値と開発現場をどう橋渡しするかの話です。
PoCは動いた。でも次に進めない
AI導入の相談で、非常によく聞くのが次の状態です。
- デモやPoCは問題なく動いた
- 現場からも「面白い」「可能性は感じる」という声はある
- しかし、本番化の意思決定が進まない
この状態に陥る原因は、技術不足ではないことがほとんどです。
多くの場合、ボトルネックは「判断材料が揃っていない」ことにあります。
PoCは本来、「技術的にできるか」を確かめる工程です。
一方で、本番化の判断には、次のような問いへの答えが必要になります。
- 誰の業務が、どの程度変わるのか
- 現行フローと比べて、どこに価値があるのか
- 投資判断として、今やる意味はあるのか
これらが言語化されないままPoCだけが先行すると、「動いたけれど次に進めない」状態が生まれます。
ここで見落とされがちなのが、そもそもPoCに入ること自体が、判断の結果であるという点です。
判断材料が揃わないままPoCに入るリスク
ここで重要なのは、PoCをやるかどうか自体が判断事項だという点です。
過去には、「AIを使えば効率化できそう」という漠然とした要望に対し、話を整理していく中で次のような状態が見えてきたケースがありました。
- 課題の本質が業務設計に起因している
- AI以前に整理すべき前提が多い
- 効果測定の軸が定義できない
この状態でPoCに入っても、得られるのは「動いた/動かない」という結果だけです。
例えば、PoCの結果として「精度は80%出ました」と報告されても、それが業務上十分なのか、改善余地として許容できるのかは判断できません。
また、「一部の担当者なら使えそう」という評価も、全社展開を前提とした判断材料にはなりにくいのが実情です。それはむしろ、判断を先送りする材料になってしまいます。
そのため私たちは、このケースではPoCを実施せず、別の整理フェーズに切り替える判断をしました。結果として、不要な検証コストをかけずに、次に進むための意思決定ができました。
では、PoCに入らないと判断した場合、次に何を使って判断材料を揃えるのか。
モックは“作るため”ではなく“判断するため”
ここで登場するのが、モックや簡易プロトタイプです。
私自身、要件が固まりきっていない段階でもUIモックを作ることがありますが、
目的は「完成形を見せること」ではありません。
モックの役割は、
- 業務のどこにAIが入るのかを具体化する
- 利用者視点での違和感を早期に炙り出す
- 「これなら判断できる」という共通認識を作る
ことにあります。
言葉や資料だけでは揃わない認識を、判断可能な材料に変換する。
モックを介することで、「この業務はAIに任せられる」「ここは人がやるべきだ」という線引きが、その場で合意できるケースも少なくありません。
そのための手段として、モックを使っています。
モックはあくまで手段です。
本当に重要なのは、それをどの判断に使うのかが設計されているかどうかです。
判断設計がないとPoCは止まる
PoCが止まるか、次に進めるかの分かれ目は、技術力ではなく、この判断設計があるかどうかだと感じています。
PoCが止まる案件に共通しているのは、「何をもって次に進むのか」が定義されていない点です。
私たちが意識しているのは、PoCそのものよりも、
- どの段階で
- 誰が
- 何を見て
- どう判断するのか
という判断設計です。
例えば、技術検証の段階では現場担当者が「使えるか」を確認し、業務適合の段階では管理者が「運用に耐えるか」を判断し、最後に意思決定者が投資としての妥当性を見る、という整理です。
技術検証→業務適合→投資判断という流れを意識的に分け、それぞれに必要なアウトプットを揃えていくことで、PoCが「目的地のない検証」になるのを防ぎます。
おわりに
AI導入がPoC止まりになる理由は、技術ではなく判断の設計にあることがほとんどです。
顧客価値と開発現場の間には、必ず翻訳と整理の工程が必要になります。

私たちは今後も、「PoCを回すこと」ではなく、前に進むための判断を支援することに重きを置いて取り組んでいきます。
AI導入やPoC設計で悩まれていることがあれば、お気軽にご相談ください。


